夜は飲みつつ料理三昧(禁酒やめた)


34歳兼業主婦出版系
by tokyo_ao
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

Lesson19.『蜘蛛の褥』

『それなのに、神谷はこの男との関係を壊さないために、自分に身を投げ出した。この男への想いを抑えるために、みずから進んで恥辱的なセックスに耽ったのだ』

 これら2つのフレーズから窺えるのは、「神谷」と「自分」との横溢する切なさと、本当に欲しいものには手が届かない懊悩と。「この男」を含めて3人ながら男性である。
 いま、急激に間口が狭まったな。

 本書には嗜虐と被虐とのたゆたいが通奏低音として常に流れつづけ、しかし緊縛や鞭は登場しない。「痛いのはイヤ」だが精神的なソレを求める、意外とオーディナリーな層にも、安心してお勧めできる一品と言えよう。
 (どうして三十女が同窓会したら、往々にしてSかMかの話にナチュラルに入る流れが存在するのか? なお卑近の実感)

 ……この安心感を支えるのは、冒頭の「それ」を支える説得力だ。
 それ、あの、という、こと、いずれも便利な承前の指示語だが、これらが有効に機能するか否かは、前もってどんな材料が用意されているかに懸かっている。  

 精神的Mを担当する主人公・神谷のもつ違和感は、恐らく世間にありふれたものだろう。
 自身に対する、故のない「からっぽ」感。少年期に実父を失い、義父と妹とを受け入れざるを得なかったことの屈託。たしかに実父を早く失うことは稀ではないにせよ、その失い方にあった、個人的な蹉跌と悔恨。

 これらは伏線として扱われているが、決してあからさまではない。読者に対し、「何かある」と思わせつつ「いつか語られるだろう」と間を持たせ、最終的に「語るのを待つ」モードに持っていくためには技量が要る。

 本書はその技量を満たしている。ただし口絵は下品だ。へたしたら、このLesson19まででいちばん下品だ。
 「安心してお勧めできる」って、いま、取り消してもいいですか。
 
[PR]

# by tokyo_ao | 2007-01-13 02:45 | 無謀/BLを総括する

Lesson18.『トゥルース』

『どちらが抱く側になるかを賭けた、先にイカせたほうが勝ちという勝負では、既に二度も負けている』

 上記引用はつまり、男同士でセックスするにあたってのことを言っている。どちらがどうという役割が決まっていない間柄では、それは恐らく大変な問題なのであろうと拝察される。
 性的にありふれた嗜好の持ち主にとって、単に「セックスする」といえば、自分が何をすればいいのかは、ある程度自明だ。処女や童貞だって大概想像はつけているだろう。

 以上を鑑みるとき、直截な表現で誠に申し訳ないが、「入れる」「入れられる」という根本的な点について不分明な欲望の形というものが、わからない。そこまで具体的なイメージを欠いたまま、純粋なセックスへの願望というものは、存在し得るものなのか?

 以上の疑問は、驚くべきことに、本書のオビに書いてあった日本語3文字で氷解する。

 「攻×攻」

 ……それは、BL小説において既にジャンルとして確立されているシチュエーションらしい。と見做した根拠については割愛するけど、そうらしい。そうなのだ。
 現実世界において、酷くマイノリティでレアでマニアと思われるその世界を、僅々3文字で表現し得る日本語は偉大すぎないであろうか。

 この表現を目にしたとき、想起されたのは、生来全聾の子供らの話だった。手話も口話も教えられなかったとき、その子供らは、多く独自の「言語」を生み出すという

 つまり言語は本能であると、これらの論文は言う。
 私はこの子らの伝えたさ、もどかしさ、わけのわからない(であろう)悲しみ、孤独、努力、とりわけ傷だらけの努力を思ったとき、肺臓を揺すぶられる。ただし言語とはとても偉大な存在でありつつ、思想が必要としたときはいつでも生まれ得るオンデマンドなブツに過ぎない、こともまた覚える。

 はなしが重くなっちゃったんで「攻×攻」に戻りますが、このお話は第2弾で、恐らく続くらしいです。責任はとります。
[PR]

# by tokyo_ao | 2007-01-04 22:48 | 無謀/BLを総括する

Lesson番外3.BL小説を貸したのち音信不通になった友、及びM-1グランプリの「つかみ」について

 まず、前回「白菜」を出したのは全然いらんかった。やり直す。

 コンビ、登場。
ボケ  (なにひとつ観客にアピールしないままに、力いっぱい相方を抱きしめる)
     「ぼくの運命の人をこの舞台に連れてくることができました! ありがとフゥー!」
ツッコミ(当初うろたえ、引き剥がそうとし、だんだん虚ろな目になって脱力する)
     「ごめんな……おかん(既婚者はヨメの本名)……」
ボケ  (間。全力で、相方をステージに叩きつける)
     「けがらわしいからっ!」
ツッコミ(何事もなかったように上体だけ起こしつつ)
     「おれズボン買うてん……」
ボケ  (手を引いて助け起こし、ズボンの埃をはらいつつ)
     「あ、よぉ見たらおニューやんかなあ」
 以下、ネタへ

 序盤ぐだぐだだったポイズンガールバンドを想定してやってみたのだが……。
 難しい。
 じゃなくて、私はBL小説のレビューをやってたんだ。
 「どうしちゃったんですか?」って訊かれた。イヤそれはそもそも、BL小説のレビューを始めたときに訊かれたんだった。

 初めてBL小説を貸してみた友達は、お家の留守電にメッセージを入れてみたら、電話をくれた。
 携帯電話をなくしちゃったから、一時停止にしといたんだそう。
 「あはは、意外と心配しぃだよねー」と言われた。

 いっしょに遊ぶ約束をしたついでに、ムダ話もした。BL小説は、どんなのが好きなのかわからなかったから傾向の異なる3冊を貸したのだが、評価が私とほぼ一緒だった。
 なんというか、案じていたより、もっと友達だった。
[PR]

# by tokyo_ao | 2006-12-30 23:21 | 無謀/BLを総括する

Lesspm17.『闇色のドルチェ・ヴィータ』

 初めてBL小説を貸した友達にメールをしたら、宛先不明で戻ってきました。
 携帯に電話をしたら、『おかけになった電話は、お客様のお申し出により、おつなぎできません』と言われました。
 神よ。BL小説のために、私は15年来の大事な友達をなくしちゃったのでしょうか。

 さて、今回の引用。
 
『喪服に裸足とは、ずいぶんそそられる格好だ』

 発言者、30代前半と思しき男性。相手は22歳男性。舞台は雨の街角だ。
 どういうクオリアしてんだ。
 しかも、この台詞、5ページから始まる本文において、9ページ3行目に登場する。
 早っ。ラヴァーズ文庫、展開早っ。

 このスピードは、お笑い芸人のかたに、大いに参考にしてほしい。M-1グランプリを毎年たのしみに見ているのだけど――今年は外出の途中、録画を忘れたことに気づいてすごすご家に帰った。なお、夫婦で。
 いずれもネタを作りこみすぎの気がする。

 結局、4分間まんべんなく笑わせたチュートリアルが優勝したが、いわゆる「つかみ」さえ抑えておけば、また結果は違ったのではないか。こんな、異論だけ述べて代替案を提示しない姿勢はすごくヤだから強いて言うけど、まずは自己紹介ののち、どっちでもいいから相方を、力いっぱい抱きしめてみては。
 「ぼくの運命の人をこの舞台に連れてくることができました! ありがとフゥー!」とか叫ぶ。

 で、発言者は一回転する。「そういえば白菜って、おいしいから日清戦争で日本に来た野菜?」とか超ヤる気の無い口調で言う。「どうでもいいよ!」と、全力で、相方は抱きしめられながらボケる。
 その後ネタを始めてはどうだろう。

 なんか余計なことを言っただろうか。
 私は旧友にコンタクトを取れないのだけ、気がかりだ。
 幸い家電は知ってるから、あした尋常な時間にかけてみたいと思う。
 
[PR]

# by tokyo_ao | 2006-12-29 01:16 | 無謀/BLを総括する

Lesson16.『ハチミツ浸透圧』

 今回、引用はナシ。本書が私の手許にないのは、酔った勢いで友人に貸してみたからだ。
 『こんなの借りてくれる友だちがいた』という驚きを、引用文よりも今つたえたい。

 なんでも我が友は就職活動中で、現実逃避のすべを読書に求めているのだそう。
 いかにも、BL小説は人生について考えさせられる要素が著しく少ない。ないと言ってもいい。
 現実逃避の一法を試みるとき、だまされたつもりで男性もBL小説を手にとってみてはどうだろうか。

 そういえば、「パイナップルとひじきのサラダ」というレシピが手持ちの料理本にあって、「意外なおいしさにビックリ」だそうだ。だまされたつもりになる気にまだなれん。
 ひと様に薦めときながらこんな連想してるようじゃダメだ。

 本書はタイトルがわかりにくいので、先に解説する。
 主人公が幼なじみに「どろっとした好き」という感情を抱いているから、ふたりの心に、互いの気持ちが染みこみ合うまでが大変なのだそうだ。
 大変というか、BL以外の小説だったら、そのあとに起こるのは惨劇だと思う。

 幼なじみというのがまた、17歳の運動部員(剣道)という設定のせいか、性欲が大変なことになっている。理性に反してどうにも止まらなくなっちゃった男の子を、Lesson16にして初めて見た。
 しかし17歳のすぐれて健康な男子であれば実際こんなもんのはずで、リアリティという点で首肯せざるを得ないのがなんだかな。リアリティ? なにか忘れてないか。

 初めてといえば、10代の男役というのも初登場である。これは予想と大きく異なるBLの「今」だ。
 思い出話になるが、まだBLが「やおい」というどこか淫靡な隠語で語られていた時分、それは限りなく「少年愛」に近い世界ではなかったか。
 14歳とか17歳とかいう言葉自体に、我々は詩情を感じ――ごめん、劣情でいいや――、今の言葉で言えば「萌えワールド」を展開させ得たのではなかっただろうか。

 それが今や、「17歳」は「さかんな性欲」をもたらす設定に過ぎない。
 実際この17歳、上記のどうにも止まらない状態になっちゃったあと、今度は自己嫌悪から主人公に触れられなくなる。で、主人公が泣く。実に17歳だ。

 本書はそこらへんの心理描写がきめこまやかな佳作である。
 ……さよなら私のトポス。
[PR]

# by tokyo_ao | 2006-12-22 20:29 | 無謀/BLを総括する

Lesson.15『兄と、その親友と』

『世の中のルールなんてものは、誰が作ったのかわかんねーようなものもたくさんあるけど……それでもやっぱり、犯してはいけない禁忌みたいなものってあると思うんだよ』

 2作連続、兄の親友とセックスしてて兄に踏み込まれる男子の話を読んでしまった。うかつだった。
 ほんとは、NYのマフィアにあえがされる商社マンの話を読む順番だったのに、会社に置いてきてしまっていた。そっちのがうかつだ。

 それはとにかく、上記の引用は「兄の親友」のセリフだ。つまり、「親友と弟と」の現場に踏み込むほうではなく、踏み込まれるほうの発言である点にご注目いただきたい。
 どの口が言うか。

 要するに上記の「禁忌」は、言わずもがなだが男同士のセックスを咎めているのではない。であればBLとして成立しない。彼の言わんとするところは兄と弟の近親相姦で、現に彼は、身を挺してそれを防いだ(「兄」にはグーで殴られた)。
 なぜなら兄もまた弟を愛しているからだ。ひいては、私が2作連続で読んだのは、「兄とその親友が弟を奪い合う話」だったことになる。

 前回の『知ってる躰』も、実はそういう話だった。
 14歳の主人公を強姦しかけたのは兄の親友ではなく、実兄(24)だ。なぜ弟がそれを錯覚したかといえば、その直前まで、兄の親友を想ってオナニーしてたから。兄も兄だが弟もどうか。

 それは一応伏線じみた扱いになっていたために、レビューでは触れなかった。
 しかし「売れてるBL」のみをターゲットに読書していて、2作連続そういうネタなんだから、もう伏線として認めない。

 「兄とその親友が弟を奪い合う話」は、いまジャンルとして確定した。

 当該ジャンルの名称と定義については、また後ほど。
 ここは一番、本書の隠れたハイライトについて書かせていただきたい。

 本書の「兄」は、実の弟に欲情していることを、当の弟、および自分が親友と見なしている人物に知られてしまう。そして想いは実らない。
 のみならず、弟が親友に奪われるところを目の当たりにする。
 狂ってもいいと思う。
 
 ……兄ちゃん、後日ふたりに紅茶だしてたよ。
[PR]

# by tokyo_ao | 2006-12-13 19:58 | 無謀/BLを総括する

Lesson14.『知ってる躰』

『男同士であんなことをされてもまだ思慕を切り捨てられないなんて、異常心理以外の何ものでもない』
 「あんなこと」とは、主人公が14歳のときに強姦未遂されたことなのか、18歳のときに強姦されたことなのか、本文からは特定しがたい。その両方でも異議はない。

 14歳の女の子を強姦しようとしたら、問答無用で悪い。と信じたいけど、男の子の場合はどうなのか?
 そうじゃなくって、悪いのは「強姦」なのだよな。今ちょっと何かが分からなくなっていた。

 と戸惑う一読者に対し、作者は、「激昂して相手の男に斬りつける10歳年上の兄」を用意してくれていた。しかも日本刀で。今だったら銃刀法違反のキレた兄ちゃんに過ぎないが、本書の舞台は1943年、兄ちゃん、職業軍人。
 時代背景から鑑みても、そのくらいやっていいのかも知れない。どうも男同士の関係について友人や親戚が極度に寛容か無関心、あるいは自らホモという話ばかり読みつけていたから、安心した。

 しかし、主人公は14歳。
 萩尾望都のしっぽを引きずりながら成人した70年代生まれの腐女子にとって、それだけで共感を得やすい年齢設定だ。そのくらいの歳だったら、女の子よりきれいな男の子もわりとリアルでいるし。
 ただ、なんというか、全200ページ中60ページ弱がセックスの描写だった。

 たいしたこと無いように聞こえるかもしれないが、60ページセックスの描写だけを書くということは大変なことだ。
 なにしろ、官能小説と違ってBL小説は、「精神的な関わり」なくして成立しない。そこが一番の違いだと言っていいくらいだ。

 200ページからカラダの関係60ページを引いて、あと140ページでココロの関係と、もちろんストーリーも展開させなければいけない。労作だと思う。

 今まで私がさんざん嫌がってきた、口絵の存在意義がここで生きてくる。つまり本書には口絵が無い。 
 いくら主人公が14歳でも、とびきり下品な口絵が用意されていたならば、それなりの心構えができていたはずなのだ。

 もはや誰にも喜ばれないレベルにまで達していると思われた、口絵の存在意義について、考えさせられた一作であった。
[PR]

# by tokyo_ao | 2006-12-08 01:45 | 無謀/BLを総括する

Lesson.13『エス』

 『浅ましい姿も恥ずかしい姿も、今はすべてさらけ出せる。宗近を無心に欲しがる素直で淫らな自分を、心のどこかで愛おしく思っているからかもしれない』

 ……ソレは、さらけ出せなくていいのではないか。
 あと、愛おしく思わないほうがよくないか。

 素朴に突っ込んでしまう読者にとって本書は難解なテキストだ。実際、BL読書13冊目にして、初めて再読した。おもしろくて再読するなら読者冥加だが、ちがう。
 「どうしてそうなの」「なんでそうなるの」という疑義が多すぎるからだ。すべて保留にしながら読み進めていたら、保留のままに読了して唖然とした。

 再読して、ようやく得られた本書の主旨は、「極論」。
 たとえば上記引用にしても、「さらけ出していいのかもしれない(この人の前なら)」、「(こんな自分を)認めてもいいのかもしれない」、くらいのニュアンスにしてはどうか。そうすれば、より多くの読者の共感が見込まれ……ないのが、2006年の現実だ。

 BL分野の売り上げランキングを丹念に見ていくと、いかに当該ジャンルが売れ筋とはいえ、少数の作家による寡占状態であることは否めないことが分かる。英田サキによる全4巻のランキングを、amazonの敢えて総合ランキング(本)で見てみる。
 第1部(本書)…975位
 第2部-咬痕- …4929位
 第3部-裂罅- …2125位
 第4部-残光- …660位
 (以上、2006年11月30日現在)

 ……いくら完結編である第4部の発売直後とはいえ、この高順位はなんなのか。腐女子しか買わないのにさ。
 版元である大洋図書さんと同じくらいの知名度をもつ出版社で、1冊amazon3ケタを叩き出したら、その担当編集さんがどんなに自由になれるか生憎じかに知ってる。
 
 というか、道理で住所に見覚えがあるような気がしてたら、日ごろお世話になっております版元さんと同一グループだった。
 私が校閲させていただいた本は、6ケタだった。企画の段階で請け負ったべつの版元さんの本も、6ケタだけど。まずは今後、提案型の営業を心がけさせていただきたいと思う。

 ただ、本書の口絵は非常に恥ずかしい。りっぱなエロ本。町の本屋さんでコレ1冊、領収書を貰わずに買えるかと問われれば、買えない。罰ゲームだったら浮世の義理で、買う。  
 amazonで買いたくなる(通販でしか買いたくない)気持ちも、分かる。
 だれが買ってるんだよという、恐ろしさだけが残る。

 これだけ売れてるので、きちんと全4冊買って、次は逃げないレビューを心がけます。 
[PR]

# by tokyo_ao | 2006-11-30 01:19 | 無謀/BLを総括する

Lesson番外2.プランタン出版と相貌失認の疑い 

 これだけ下品なブログをつけてて今さらあれだが、プランタン出版(フランス書院文庫)の口絵は下品すぎると思う。本を手にしてまず口絵が目に入り、びっくりとげんなりが綯い交ぜの気分で、思わず本を置いてしまう。びっくりとげんなりは緩急の差がある感情で、あまり綯い交ぜにはならない道理なのに、きれいに綯い交ざる環境もあることを知った。

 しかも、「少しずつでもいいから、毎日時間をとる(BL読書にな!)」と決めてたから、「今日は1ページも読んでないよ、どうした私」と、思った。
 そして本を手にしてまず口絵が目に入り……、以下繰り返してしまった。嫌な記憶は速やかに消去されるという都市伝説は、本当らしい。

 けど最近BL読書が進まないのは、なにもプランタン出版の口絵のせいじゃない(いばるな)。

 学術情報冊子と映画のノベライズ、啓蒙書とライトノベルとハリウッド映画原作を、1週間で校正する羽目になったからだ。ターミナルケアで日中合作で、自己啓発で学園秘密結社で全米が泣いた1週間だった。
 病気になるかと思ったら、なった。自分の感受性にちょっと信頼が増した。

 ただ1つ不安なのは、忙しいといっても活字だけ読めばいいので人間からずれていく気がする。3番目に片づけた「啓蒙書」に、小学3年から15年以上引きこもっていた男の子が、人知れず統合失調症を発症していた事例が載ってた。怖くなった。

 先々週、高校生くらいの男の子がじっと私を見ているような気がした。「なに見てんだよ?」と見返して、一瞬目が合って、彼は何かあきらめたように視線を逸らした。
 もしかして、前日に道を尋いてきた男の子なのかと、やっと心づいた。

 いや尋いてきたのじゃなく、正確には彼が二十歳くらいの女の子に、「すいません」「すいません」を激しい調子で繰り返していた。単に「すいません」のあと、たぶんトで始まる言葉を続けようとしてつっかえてるだけなのだが、状況を理解できない女の子はおびえていた。
 ちょうど校閲した雑誌に、「吃音が取りもつ縁」と題するページがあって、「ふたりともトロが食いたいのに言えないからイカばかり食ってた」というフレーズが頭に残っていた。

 「トイレですか?」と、念のため尋いてみると、絶望的な目をされた。
 ――そうよね、この年頃の男の子が、トイレの場所をうら若い女性に尋くまい、残酷なことを言ったよ――とそこで閃いて、「東京××専門学校」と言ってみたら、「東京××専門学校は、あっちのほうですか?」と。

 しかし私はヒトの顔を覚えるのが本当に苦手で、昨日のあの子が今日のこの子かなんて考えると、「天文学的数字」とかいうタームが浮かぶ。結局その子を無視した。

 そして先週、財布を拾ったら近所の学校の学生証が入ってた。届けに行ったら、入り口のあたりで、しかめっつらの女の子がバタバタ走ってた。
 学生証の写真の子と、似ているかもしれない。私には判断できない。
 事務所に届けてエレベーターを降りたら、やっぱりその子が走り回っていた(←この場合は服が同じなので判別できる)。

 鋭いさげすみか感謝の念か知らないが、私に向けたかった男の子と、泣きそうになりながら財布を探し回っていた女の子。しかも両方とも私の妄想かも。ちゃんと顔を覚えられる人間だったらと、つい思ってしまう。
 
 とりあえず年内には検眼に行こう。
[PR]

# by tokyo_ao | 2006-11-22 02:42 | 無謀/BLを総括する

Lesson12.『寒冷前線コンダクター』

 『すみませんでした…。こんなことは二度としません……誓います』

 前回とりあげた『おうちのルールで恋をしよう』(←男どうしのセミ近親相姦に萌える本)は、オビが「愛してる、俺の可愛い父さん(はぁと)」だった。男性が一生言われたくないセリフとして、かなり高位につけると拝察する。
 それに対して、本書のタイトルは実に健全だ。オビは付いていなかった。

 「2006年現在の売れてるBL」を読んできたが、今回からしばらく「売れてるBLシリーズの第1作」を読んでいく。本書の初版は、今から12年前の1994年。BL小説のタイトルが一般に、まだあられもなくならない時代の発行なのだ。
 そして神田の三省堂本店にふつうに並べてあったのは、2005年6月30日発行の19版。強姦から始まる男どうしの恋物語らしいのだが、立派なロングセラーとなっている。

 本書が初の文庫化だという作家・秋月こおは、斯界の金字塔『JUNE』誌からデビューしている。当時連載していた中島梓(栗本薫)の「小説道場」で、腕を磨いていたそうだ。
 なお第1回でとりあげた吉原理恵子は、『小説JUNE』創刊第2号(1983年)が商業誌の初出であり、いまだにトップセラー。その記録には及ばないものの、だいたいこの人たちの足跡が、そのまま日本のBL小説の歩みと言っても過言ではないだろう。

 そんな秋月こおが選んだのは、指揮者とコンマスのカップリング。この設定の妙が、ロングセラーの秘訣だろうか。だって職業に貴賎は無いとはいえ、どっちが男役だか、わかりやすいことこの上ない。というか、「下克上」――萌えカテゴリの一種として、既に実在するらしい――が好きな人以外には、指揮者という職業の属性は、考えてみればあからさまではないだろうか?

 それに対するコンマスは、メガネ。
 この時代、メガネはまだ「平凡」や「まじめ」の記号として機能していたことを窺わせる。のちの「クールビューティー眼鏡受け」(from『恋は淫らにしどけなく』)、果ては「眼鏡をかけた男をウリにした」(from『今宵、眼鏡クラブへ。』)まで至る道筋が、見えない。

 メガネ問題と体臭問題、姫問題や皇帝問題など、読み解くべきサブカテゴリが無駄に増えてきた気もする。今の私に出来ることは、1つ1つを無念無心に解決していくことだけだ。

 それより何より問題なのは、本書がそもそも雑誌連載の文庫化であるという事実だ。早い話がこの話、ぜんぜん完結していない。いや、シリーズ物であれば完結していないのは当然だが、文庫書き下ろしのスタイルに慣れてしまった読者としては、これは辛い。  
 主人公の2人が「友人」に戻って、本書は終わる。男が男に強姦されてソレはありえない、以上に、物語の構成としてありえない。

 だからBL専門の古本(通販)屋に、会社名義の領収書を出してもらえるのか、問い合わせ中。あ、コレがロングセラーの秘訣の一環か。
[PR]

# by tokyo_ao | 2006-11-17 01:11 | 無謀/BLを総括する