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『安心しろ、たぶん天国にいるだろう母さん。浩一郎は俺が幸せにする。俺が幸せにしないで、一体誰が幸せにするんだ?』
上記引用は、主人公(男役のほう)の独白。 1文目の「母さん」は、主人公の実母。 2文目の「浩一郎」はその2番目の夫で、主人公にとっては義父に当たる。 3文目の主張がいかに間違ってるか、よくわかると思う。 そしてこれが義父ならぬ義母(29)と息子(20)では、官能小説のベタな設定になってしまう。一方、義父(29)と娘(20)なら、まぁ何かなまぐさいが当事者がいいならば程度のしめっぽい幸せしか漂わない。 ココに「男どうし」を持ち込んだのが、作者の勝利だ。 そう、売れてるBL読書、11作目にしてやっと、確信犯のコメディに巡り会った。 確信犯とはたとえば、「BLはちょっと」と言うかたにも「ココまでなら」と許されることがままある、よしながふみ。以下代表作の『アンティーク』から。 高校のとき告白したのに(男に)、付き合ってくれなかったのは、もう付き合ってる人(男)がいたからなの? と詰め寄る旧友(男)に対し、 「男を一億総ホモにするな!」 そう叫ぶ、主人公のいるさわやかさ。 そしてハードな恋愛描写を本編では遠慮のうえ、同人誌で書くその分別(それがなければ、「月9の原作」という地位を得ることは無理だったろう、さすがに……)。この客観的な視線のあらまほしさ。 いっそ本書を脚本に起こして、小林賢太郎に「やって」って直訴したい。男夫婦のネタをごく自然にこなしてくれるラーメンズ、似合うと思うなあ。しかも男夫婦だと必ず片桐仁が女役なのに、『タカシと父さん』とかだと「父さん」が片桐仁。 ……ぴったりじゃないか! とりあえず、この作者の今後を追ってみる。 #
by tokyo_ao
| 2006-11-09 00:46
| 無謀/BLを総括する
月刊誌は既に年末年始ということで、『鍋』特集の校閲中。
「好きな鍋」として「ちゃんこ」を挙げるの、もぉ禁止! ちゃんこ調べるとなると、力士も調べる羽目になるんだよ。 力士について校閲する傍ら、BL小説のブックマークをつくっていたから、私のデスクトップは男のハダカだらけだ。実写とイラストという違いはあるが。もっと違うとこあるだろ。 今日いちばん見た色って、肉色だ。青いものとか見たい。 替え歌つくった。 (草野正宗『ホタル』で、サビの出だしから) 時を止めて 僕のデスクが 男の肌で 染まってゆくよ ……やってみたら100%不快になると判ってることほど、やってみちゃうのは何故だろ。結局Mなのかな。 #
by tokyo_ao
| 2006-11-07 17:34
| 無謀/BLを総括する
『だって、ぼくは、いたいけな子供とセックスしたりしてないもん!』
「皇帝もの」に引き続き「姫君もの」を読むという段取りだったから、トラブルをまったく予想してなかった。だって、一見似たよなジャンルと思っちゃだめなのか。 ……まったく違った。 そういえば最近、ホモの女役を「姫」と称する風潮があって、それに反撥する人も少なくないことを、ゆきずりのやおいサイトで読んだ。なに言ってんだ私。 いわば本書は、「姫」系の極北だ。 なぜなら、いっそ主人公が女性であっても差し支えないのではないかという突っ込みを超え、もう男性じゃなきゃ機能しない「姫」物語だから。 主人公は、地球規模の大災害を経て生き残ってしまう。この大災害については、小松左京先生が10年かけて為遂げなさったことの128倍の規模が、冒頭の1ページで為ったと思って頂くといい。 「どうして僕だけ生き残ったの? 僕も家族のところへ行きたい」と、まだ若いのに墓まで掘ってる主人公を、生きてる以上は生きろよと、海賊が無理やり助ける。「命の尊さ」がリピートされ、ちょっとイイ話だ。 そして体調が回復するや否や、クルー全員の性欲処理係にされかかる。性別を不問に付したら、海賊としては非常に正しい。イイ話はどこ行った。 この期に及んで主人公を女性にはできないと思う。なまなましすぎるわ。 ……ここで謎なのは、主人公が17歳という設定だ。カバーイラストのみならず本文の記述からも、まだ性別が未分化な13歳くらいの子供を想定させられる。平成17年の統計によると、男女の平均身長が逆転するのが13~14歳だ。 ただし、「17歳」というのは主人公自身にも実は曖昧で――被災後の年月を覚えていないから――、海賊に知らされて初めて、10歳で被災した自分がもうじき18歳になることを知るシーンは妙にリアリティがあってちょっと息が詰まる。 このような仕儀で、べつに何歳でもいいからこそ、なぜ「17」という数字が出てくるのか。 もしかして「高校出たらセックスOK」という、現代日本一部女子のお約束がここに息づいているのか。ちなみに本書では「17」のとき「いたいけな子供」として扱われ、「18」の誕生日を過ぎてのちに、処女というと語弊がありまくるがまあそうでなくなる。 なんだこの潔癖さ。 あと、本書のレーベル「プラチナ文庫」のサイトを恐る恐る見たら、これで今月の新刊4冊ぜんぶ読んじゃったことに気づいた。「プラチナ文庫」って、「プランタン出版」という版元のレーベルだが、実はあの「フランス書院文庫」とおんなじ会社のだ。 どんな痴女なんだ。 #
by tokyo_ao
| 2006-11-05 07:21
| 無謀/BLを総括する
『国と国の問題を出せば、我々がこうしていることが間違いになる』
『私もあのひとのために祖国を、そして私の名誉を裏切ってしまったのです…』 上記の引用は、片っぽが『敵国の皇帝×帝国軍人の官能ロマンス(はぁと)』とか表4に書いてある上掲書、もう片っぽが、今日家人に連れてってもらったオペラ『アイーダ』から。ヴェルディとウクライナ国立歌劇場と家人に謝れ。 前日に続き「皇帝もの」を読む。 「皇帝もの」とは、既にジャンルとして確立している「リーマンもの」などと異なり、私が勝手に言ってるだけだが、悪くないカテゴライズと自賛しておこう。同義で「王様もの」としてもいいわけだけど、皇帝のほうは絶滅種であるだけ、あり得ないという点で正確だ。外交上のプロトコールで日本国の天皇のみ現存する皇帝という解釈もあることは、この際あまり関係ないだろ。 「あとがき」から読む。 先入観のない読書を心がける上では邪道といえるが、前日の教訓を踏まえないわけにはいかない。そもそも真の読者であれば、ノーインフォメーションでもシリーズものであることくらい分かる筈。インフォメーションしてよという切願はさておき、いちげんさんが「なんだこの世界は!」と騒ぐのは見苦しい。失礼を避けるためにも、当面はこのスタイルでいく。 時は明治末期、ただし(ロシアをモデルとした)架空の国が舞台なので、あくまでも借景、と。 なんて安心感だ。 45ページ、時間も場所も定かでないままゆらゆら読んでしまった、前日の教訓が生きている。 安心しながら読んでいたら、「皇帝」は初手から「帝国軍人」に平手打ちを公衆の面前でかました。理由は、かつての幼なじみなのに覚えてない(ふりをした)からだそうだ。これは予測できなかった。そして16折(256ページ)中の34ページめで、早くも私室のカウチに押し倒す。 『先に無礼をなさったのは陛下でいらっしゃる。我が大使館に所属する者を勝手に拉致なさるという暴挙は、国際法上、どう解釈したらよいものか』 主人公の上司である「大使」の抗議は、心情的にはしごくもっともだ。しかし国際法はそこまで面倒みなかろう。 それとこの「大使」は仮装パーティーでみごとな女装を披露しており、駐在国の「外務大臣」と、たぶん既にできてる。 ……「あとがき」によればこの話、「新シリーズというか、まだシリーズにはなっていないのですが(笑)」だそうだから、今後の定点観測の対象として、タイムリーな作品と言える。 次作は年明けくらいかしら。たぶん読むよ。 #
by tokyo_ao
| 2006-11-05 04:05
| 無謀/BLを総括する
『違和感なくドレスを着られてしまった自分の体が恨めしい。』
本書のカバーイラストは、ウェディングドレス姿の男性だ。胸がはだけて乳首が出ているのは、「ウェディングドレスだけど男性」を明示するための苦肉の策だろう。レッスンの甲斐あって、だいぶ冷静にものが言えるようになってきた。 この「ゲイの女役が女装」というのは、BL小説ではもう誰も突っ込まない「お約束」らしいのだが、個人的には違和感が残る。控えめに言って、「女装させるくらいなら女性でも差し支えないのでは?」という疑念が拭えないからだ。 しかし本文を読み始めて、そんな細かいことを気にしている場合ではないことに気づいた。 「一章」の1ページ目に「出自が庶民であるウィル」という人が登場するので、身分制度のある国もしくは世界の話なのだなと、取り敢えず了解して読み進める。次のページに「皇帝」が出てくる。そこから得られた「狭義のファンタジー」という定義は、けれどなんだか怪しくて、ついに「一八世紀の名のある職人」という表現の前に砕け散る。 現代社会の話であることを理解するのに、45ページもかかってしまった。 同時に、タイトルにある「プリンス」というのがなかなか登場しない、わけではなく、この皇帝すなわちプリンスだということも了解した。私はどんどん、察しが良くならなくてはいけない。 なぜ本書がそれらの基本情報を省くというか、「お約束」に丸投げするのかというと、明白な理由がある。ひたすら皇帝がいかにかっこいいか、主人公がいかに切ないのかを描写するのに忙しく、時間とか場所とかどうでもいいことを書いている暇はないのだ。 この構造は、以前これも仕事で読んだ『最終兵器彼女』に似ている。仮に『サイカノ』の定義を「戦争で世界が滅びる話」だとすれば、「戦争の話なのに『敵』の描写がいっさい無い!」という、鮮烈な衝撃が得られる。 しかし同書を「チビッ娘・ドジッ娘・メガネッ娘に萌える話」と定義したとき、『敵』の描写などそれこそなんぼのもんであろうか。 以前、家人と交わした会話を思い出した。 『胡蝶の夢』について、「松本良順が、高弟の困ったちゃんのお世話をしてあげる話」以外いっさい覚えてないと言ったら、「読んでないのも同然だ」と評された。 「読みかたが違うだけだよ」と言ってみたら、「僕が間違っていた」と取り消された。 そんなに間違ってないよ。 というより、なんで『ダンディ・プリンス』のレビューに『胡蝶の夢』を引っぱってくる。司馬先生に謝れ。 --------------------------------------------------------------------------------- 追記:あとがきに、本書が「プリンス」シリーズの第4弾であることが記されています。だから上記のレビューはちょっと言いすぎです。あとがきを読む前に書き始めました。ごめんなさい。 #
by tokyo_ao
| 2006-10-30 20:23
| 無謀/BLを総括する
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